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ようやっと6話目です。

あまりに前回から間が空きすぎて、初めて目にする方の方が多いと思いますので、毎度お約束の前回までのあらすじとこの先の簡単な展開を反転しときます。

(以下反転)

自分の長身と家柄に悩む花椿カレン。18歳の誕生日を目前にした彼女の元に、同じ一族でありながらそのほとんどが謎に包まれている人物、花椿姫子が怪しげな薬を手に現れる。彼女は入れ替わってみたい人間はいるか? と問うと、カレンに告げた。

『その方にこれを飲ませて、体の一部を繋ぎ、一晩一緒に過ごすのです。次に目覚めた時には貴女はその方に、その方は貴女になっているでしょう。ただし、効果は口にした時から24時間。意識を保てるのは後から薬を口にした方だけだから、お気をつけなさい』

半信半疑でありながらも、カレンは思う。

『バンビになってみたい』

そして親友に薬を飲ませた翌朝、目を覚ますとカレンの目の前には自分の体が横たわっていた。

親友となりかわったカレンの前に次々に現れる男子たち。
親友の前だからこそ覗く、彼らの意外な一面に翻弄されるカレンの行く末は?


(反転終わり)

*******************************

6



朝から二連発でエライ目にあったアタシがグッタリしながら他の登校中の子達に混じって昇降口へと向かうと、前から見知った顔の女の子の二人連れが歩いてきた。ちょっと前まで、部活の時なんかに色々アタシの世話をやいてくれてた後輩の中でも一番積極的だった子たち。
向こうもアタシに気付いて、ぱっと顔を明るくする。
ちょっと憂鬱に思いながらアタシはいつもの通りに――
「あ、バンビ様! おはようございます!」
「……へ」
「おはようございますバンビ様!」
「……あぁ!」
言われて思い出した。そうよ、そうだよ、アタシってば今バンビなんじゃん!
アタシは精一杯バンビが言いそうな事を考えて応じる。
「お、おはよう。えーと、バンビ様はやめて?」
すると女の子たちは不満そうな顔になった。
「えぇ~、でもぉ」
「カレン様の親友でいらっしゃる方をカレン様と同じ呼び方で呼ぶのは当然のことです!」
……出来ればそのカレン様もやめて欲しいんだけどねぇ……。てかバンビ、なんか巻き添えごめん。
以前アタシが『そういうの、もうやめて!』って一回切れて以来、慕ってくれる子たちの間でなんらかの協定が結ばれたらしく、過度な特別扱いはしないでくれるようになったんだけど、挨拶なんかは変わらず様呼びのままだ。
「それでは私たちはこれで! バンビ様、失礼します!」
「失礼します!」
「うん、じゃあね」
アタシは手を振ってその子達と別れる。
悪い子たちじゃないんだけどね……せっかくバンビになれたって言うのに――って言っても、慣れてないからそのことすぐ忘れちゃうんだけど――アタシはまた自分の身の上を思い出してしまった。
あの子たちはいったいアタシになにを求めているんだろう。上品なお花チックな関係? 女子校でもないのに? 
アタシ自身、カワイイ女の子をカワイイカワイイするのは大好き。でも……でも、ホントは。
だいたいアタシ自身はそんなに持ち上げてもらえるような人間じゃない。そんな上等な人間なんかじゃない。
そりゃファッションのことだったら誰にも負けたくないし、美容には気を使ってる。バレーだって楽しいから部活も頑張ってるつもりだけど、それってみんなと変わりない。みんなだって同じように頑張ってる。ていうかアタシより頑張ってる人なんて腐るほどいるじゃん? アタシ勉強嫌いだから成績だって良くないしね。
だとしたら。
それってやっぱアタシが花椿の――

「あれ」

考えごとしながら下駄箱で上履き履こうとしたら、なんかサイズが合わないことに気が付いた。
なんでこんなにぶかぶか……って、あ。
アタシはそこでようやく、ついいつもの通りに自分の上履きに履きかえてしまっていたことに気が付く。
あぁ、もう! だからアタシは今日一日バンビだっつーの!
アタシは慌ててもう一回靴に履き変えると、バンビのクラスの下駄箱の前に移動する。蓋に挿してある名札を見てバンビのそれを見つけて履き変えた。……うん、ぴったり。って当たり前か。ウチ出る時はバンビのものを身につけるの意識してたから間違えなかったしあんま考えなかったけど……バンビ、足、23cmだったんだぁ。ちっさ! スリーサイズは把握してたけど、足のサイズは知らなかった。アタシ、25あるからなぁ……そりゃぶかぶかになるわけだよ。ふふっ。やっぱカワイイ。小さいは正義! 帰りにショッピングモール寄って小さい靴、履きまくってみちゃおうかな?
そんなことを考えてちょっと浮上しているところに、独特の響きの声が聞こえてきた。
「おはよう」
「あぁ、おはよ、ミヨ…っ…ちゃん」
見ればすぐそばにミヨが音もなく歩み寄って来ていた。
ミヨはじっと、真っ直ぐにアタシの目を見る。
「…………」
バンビとあまり変わらない身長。そのせいで、いつもより近いところにあるミヨの顔。今は、今だけはそれがちょっと怖い。距離が近ければ近いほど、猫みたいな形の、綺麗に澄んだ大きなその瞳に、本当はアタシが誰なのかを見抜かれてしまいそうで――。
「どうしたの」
抑揚のない声で訊かれて、アタシは焦って首を振る。
「え! あ、ああ、うん、な、なんでもないの」
「そう。……」
ミヨはまたじっとアタシを見た。アタシも、なぜかそこから目をそらせない。
やっぱり不審に思われてる? それとも、ミヨはいつもこうだった? そうだったような気もするし、いつもよりも強い視線のようにも思える。――ううん、やっぱりいつもと同じか。中学の頃からずっと。普段と違うように感じるのは、きっとアタシ自身の後ろめたさのせいだ。
アタシはそんな自分の後ろ暗さをごかますために、こういう時の常套句を口にする。
「な、なに? なんか顔についてる?」
ミヨは小さく首を横に振る。
「ううん。伝えたいことがあったけれど……今はいい。また今度」
「そ、そう」
ミヨには悪いけど、今日だけは一緒にいない方がいいかも。すぐぼろが出ちゃいそうだもんね。バンビとミヨ、すっごく仲がいいから、勝手に親友のカラダ使われてるなんて知ったら、気分悪いかもだし。
「えーと、じゃあアタ……わたし、そろそろ教室行くね?」
じゃあね、って背中を向けると、待って、って言われた。
「……なに?」
どきどきしているアタシに、ミヨは言う。
「……何か困ったことが起きたら」
「?」
「あまり思い詰めないで。落ち着いて、今まであったことを遡ってよく思い出して。通ってきた道が正しい星の導きによるものならば、必ずそこにヒントがある」
だから、大丈夫。
そう言い残すと、ミヨは自分から先にそこを立ち去った。

「…………」

困ったこと……? それって、予言?
ミヨの発言がシュールなのはいつものことだけど、これから何か困ったことが……って、困ったことならもう既に起こっちゃったけどね! 
……設楽先輩、ちゃんと逃げられてるかなぁ……。

ミヨの背中を見送って、バンビの教室に向かいながら、そういえば、とアタシは思う。

ミヨ、アタシのこと一度もバンビって呼ばなかったな、って。







バンビのクラスの担任は、大迫先生だ。フルネームは、大迫力と書いておおさこちからと読む。小柄で童顔なんだけど、めちゃくちゃ声がでかくていっつも元気満々の熱血教師。セオリー通り(?)なら体育教師なんだけど、意外にも国語の教師なんだよね。
そんな大迫先生主導のホームルームが終わると、一時間目はそのまま現国の授業だからって、職員室に戻らずに先生は教室に残った。
始業までにまだ間があるから、教室内はざわざわしている。大迫先生は、なんか質問あったら訊きに来いよ! などと言って教卓の傍におかれている椅子に腰掛けて何か単行本を本を読み始めた。
日差しのよく当たる窓際、前から三番目の席で、アタシは授業の支度をする。
バンビ、一日授業遅れちゃうんだよね……ゴメン。ノートだけはしっかり取るからね!
直接バンビのノートに書く訳にはいかないけど(筆跡でバレる)、とりあえずどこまで授業が進んでるのか知るために、バンビの鞄からノートを探し出して取り出してみた。取り出してみたんだけど。
「! ……なにこれ」
バンビにしては汚い字! と思わず目を疑うほどの乱れた文字がノート一面に書きつづられていて、正直言ってこれじゃほとんど読めない。あれ? バンビってもっと丁寧な字を書くイメージなんだけど……て言うか年賀状とかの字と全然違う……。うーん、授業とプライベートは別ってこと?
不思議に思ってアタシは他のノートで確認すべく、もう一回鞄の中をあさってみたんだけど。
「あれ」
もう一冊、「現国」って書かれたノートが出てきて、アタシは首を傾げる。
もう予備を用意してあるのかな、と思ってぱらぱらめくるってアタシは一冊目とは別の意味で仰天した。
そこには、さっきとは全然違う整然とした字が書き連ねられていた。それだけじゃなくて、表になってたり、簡単なイラストが書かれていたり、とにかくものすごく読みやすい。ざっと目を通しただけで、その日の授業でなにがあったかがきちんと追えるような、そんな内容。頭の悪いアタシでもこれなら理解できるって思った。
それで、わかった。そっか、さっきのは授業中にやったことを漏らさず書き留めるためのノートで、こっちはまとめ用のノートなんだって。
復習のためなのか、テストに見直す用なのか……多分きっと両方だ。
他の科目のノートを調べてみたら、どれも同じだった。二冊ずつあって、綺麗にまとめられてる。バンビ……すごい。
予備校に通ってる訳でもないのに、頭いい頭いいとは思ってたけど、こんなに勉強してたんだ……。
「うんうん、相変わらず愛のあるノートだぁ」
「!」
いつの間にか、傍に大迫先生が立っていた。
先生は腕組みをした姿勢でにこにこしてる。
「今日もその調子で頑張れよぉ!」
「は、はい!」
アッハッハ、いい返事だぁ! なんて言いながら、先生はぶらぶら教室内を歩いている。こらぁ、そろそろ時間だ、席に着けぇ! なんて叱りつけたりして。
……ああ、びっくりした。ていうか、なんかすごくどきどきしてる、まだ。ほっぺたも熱いし、心臓ばっくばく。急に愛とか言われたからかな?
そういえば。
アタシは、愛、って言葉で、ついこないだの試験前、ミヨに泣きついてもノート借してくんなくて、ダメもとでバンビに頼んでみた時のことを思い出す。

『ねぇバンビぃ~! お願い、このとぉり!』
『それは、カレンさんの頼みだから貸してあげたいけど……でもだめ。みよちゃんに釘刺されてるから』
『えぇ~、そんなぁ~! いいじゃん、ノートぐらい!』
するとバンビは唇を少し尖らせて言ったんだ。
『ぐらい、じゃないよ。……愛してるから、そうそう簡単には見せられません』
『バンビ……そんなにアタシのこと……!』
『え? あ、あぁ、うん、そう。カレンさんのためを思えば、甘やかしちゃだめかなって。みよちゃんもそれで見せてくれないんだよね』
『わかった、アタシ、諦める! ……テストを』
『ノートでしょ! テストは諦めちゃだめでしょ!』

……バンビの、ノートに愛がある、って言うのはこういうことだったんだ……。

にしても。

どーしよー! アタシ、ノートなんて愛せない! こんなスッゴイノート作る人に見せられるような取り方、できないってば!
困った! さっそく困ってるよ、ミヨ!


椅子に座ったままじたばたしたくなるアタシの頭上で、無情にも始業のベルの音が鳴り響いた。



to be continued…
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