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8月12日追記:サイトに同じ作品をアップしなおしました。



舌の根も乾かぬうちに(ていうか一時間しかたってない)、設楽編SS2本目を投下しますー。
もちょっと手直ししようと思ったけど、もうこれ以上はどうしようもない、今は。

そんな感じでいつもの注意書きです。


1)管理人は芸術パラゼロです。できればクラシック通の方は読まないでください。おそらく詳しい方が読んだら失笑ものです。

2)「萌えって何? 食べられるの??」「うぉい! このプリン砂糖じゃなくて塩入れただろ!?」的な内容です。

3)設楽先輩の性格が異常に悪いです。設楽先輩に既に過剰な愛情を抱いている方は読むのをお控え下さい。誤って読んでしまっても怒らないでネ(←

4)長いのノリです永井さん(コラ)


それでもおkという方は続きをクリックしてご覧ください。


(追記) 今公式様行ったら昨日また更新されてたんですね! な、夏服男子…! 

汝、其ノ扉ヲ開ク者ナリ




「ああ、駄目だ駄目だ!」


設楽聖司はピアノの鍵盤に指を叩き付けた。
美しさとはほど遠い乱暴なひび割れたような音がその場に響いて、さらに彼の苛立ちを煽る。そのあまりの不快さに、設楽は盛大に舌打ちをした。


自宅の練習室。
計算された音響効果と言い、置いてあるグランドピアノの質と言い、個人の家としてはこれ以上は望めないくらいの環境。おまけに弾いているのは幼くして神童、今も天才との誉れの高い設楽聖司だ。


だが。


(弾けば弾くほど、苛々する……)


原因は分かっている。
最近、弾いている間につまらないことを考えるからだ。


自分と音楽、それ以外のものの存在。


例えば、周囲の目。
とるに足りぬ他人からの評価。
良きにつけ悪きにつけ、大概は己の外にあるものだが、時にそれは自分のどこかを無理矢理こじ開けるように侵入を果たすこともあれば、いらやしい虫が湧くように内部に自然発生してくることもあった。
そんな時には、決まって音が荒れる。
自分の指先から生まれる音色がそういった雑音で濁り、汚されるのは本当に我慢がならない。


「…………」


以前はもっと自由だったはずだ、と設楽は考える。
何から、と問われれば明確に答えることなどできはしないのだが。
そしてそのあまりの不自由さに、終いには弾くこと自体を嫌悪しそうにすらなってしまう。


ーーこんな思いまでして、自分は一体、この楽器を何のために弾いているのかーー。


そう思いながら、じっと自分の手を見て、軽く指を曲げ伸ばす。
苛立ちと怒りにまかせて思い切り叩き付けたようでいて、その実指にダメージが残らないようにしっかりと力加減を調節してあった。
そんな自己矛盾が、さらに設楽の感情をささくれだたせる。


「………」


ふらりと立ち上がってピアノから離れると、唇を噛んでその場に立ち尽くす。
こんなところにはもう一秒だって居たくないという気持ちと、かと言ってどこにも行きたいところなどないと言う結論がせめぎあって、動くことができない。
このどうしようもないほどの閉塞感。窒息しないのが不思議なくらいだ。


そんな時。


不意にズボンのポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話がメロディを奏でて室内の静寂を破った。設楽は片目を細める。
サブウィンドウに表示された名前を見て、溜め息と言うにはやや攻撃的な息を吐く。それでも、着信を無視することはしなかった。
「もしもし」
『こんにちは、あの、わたし…』
「登録してあるんだから見ればわかる。何か用か」
こんな時にかけてくるなんて間の悪い奴だ、そう思いながら素っ気なく言ってやると、はい! と元気な声が返ってくる。


電話の相手は、設楽が通うはね学の後輩の女子だった。
彼女はどんなにひどくあしらっても、なぜか設楽にまとわりついてくるのだ。
割りとぞんざいな態度で接して、その時はそれなりに気にしているようにも見えるのだが、すぐにまたこうして電話をかけてきたりする。
本当にめげないな、と設楽はある意味感心する。


『あの、今週の日曜日って空いてますか? 良かったら一緒に、森林公園に行きませんか?』
「森林公園? なんのために」
『えっと、お散歩とかどうかなって思って…』


何も考えていなさそうな暢気な物言いに、設楽は早くも軽く苛立つ。
このまだ梅雨の明けきらない、蒸した天候が続く中を散歩だと? そう怒鳴って拒否してやろうとしたのだがーーふとした拍子に、ちょっとした悪戯を思いついて、設楽は思わず笑みを浮かべる。
くだらない誘いを断り、なおかつ溜飲を下げてこのうさを晴らすことのできる、一石二鳥のグッドアイディア。


「行ってやってもいい」
『ホントですか!?』
「ただし」
嬉々とした声を遮ると、設楽は一呼吸置いてから先を続ける。
「今から俺が弾く曲を全部当てられたら、つきあってやってもいい。そうだな…五曲当ててみろ。一曲でも外れたら、この話しはなしだ」
『えぇ!?』
携帯電話の向こうからぎょっとしたような声が聴こえてきた。あまりにも大きなその声に、設楽は顔をしかめて携帯電話から耳を離す。
ややして今度は、小さく自信なさげな台詞が辛うじて耳に運ばれてきた。
『あのぅ、わたし、そんなにはクラシック詳しくないですけど…』
「だろうな。…曲名まで当てろとは言わない。作曲者だけならどうだ? 」
嫌ならもう切るぞーーそう冷たく言い放つと、やります! やります、駄目モトで! と食い下がる声が追い掛けてくる。
「よし、じゃあ聴いていろ。一曲ずつ答え合わせだ」
言うと、設楽は譜面台の隣のスペースに蓋を立てて携帯電話を置く。本来ならピアノの上にそんな異物を載せたりはしないが、今は致し方がない。


まずはーー。
設楽は軽く五指を動かしてから、ゆっくりと鍵盤へと両手を伸ばす。
一瞬にして増す集中力。
踊るように指が動き、駆け抜けるようにしてかつ追い掛けるように弾き上げる。
その合間の訥々とした穏やかな旋律。そしてまた加速ーー。


腕を止めると、設楽は携帯電話を取り上げて言った。
「どうだ? 判るか?」
『えっと、ショパン、ですよね?』
「正解」


『幻想即興曲・作品66』。
当然の返答。これぐらいは曲名も知っていてもらわなくては話にならない。


「じゃあ、次だ」


またピアノへと向き直り、鍵盤へ指を下ろす。
先程とは違い、最初から穏やかに、ゆったりと。かつ叙情的にーー。


「これは?」
『……ベートーベン、ですか?』
「当たり」


『ピアノソナタ第8番ハ単調・作品13【悲愴】第二楽章』。
これを知らない者を、設楽は人間とは認めない。


「次」


今度は、技巧的な曲を選んだ。一般的には難曲と呼ばれるものだ。指の速い動きーーそれこそキィの上を滑るようなーーを要求される曲。
しかし、設楽にかかればどうということもない。


「今のは?」
聞くと、今までで一番自信なさげな答えが返ってきた。
『~~~っ、リッ、リスト…ですか?』
「ふうん。当たり」


『超絶技巧練習曲集・第四番【マゼッパ】』。
もしかしてここで終了か、と言う予測もなきにしもあらずだったので、設楽は少し機嫌がよくなる。
有名な曲ばかりとは言え一応は知っているんだな、とほんの少しだけ見直す。爪の先くらい。


「残り二つ」


言って、次はなんとなくではあるが、彼女が好きそうな曲を弾いた。
普段の彼女のころころと転がり回るような、良く言えば元気な、悪く言えば落ち着きのないところが、それを連想させたのかも知れない。


『あ、これは分かります。またショパンですね!』
初めて自信ありげで嬉しそうな声が聴こえてきて、してやったりとばかりに設楽は唇の端を上げる。


『ワルツ第6番・変ニ長調作品64ー1』。
別名『子犬のワルツ』だ。


「正解だ。じゃあ…ラスト」


これが最後の仕上げだ。
設楽は、五度(ごたび)鍵盤へと指を下ろすとその上を自由に走らせる。
これまでになく伸びやかに。そう、それこそ思うままに。
音を生み、育み、解き放つーー。
何物にも囚われず広がる音、その中に自分が融け出すような感覚。このたとえようもない一体感。


(ああ、そうだ。これだ。この感じを探していた気がする…)


思わず、つい夢中になった。


弾き終わると、肩で息をした自分だけがそこにいて、しばし茫然とする。先ほどまでのギスギスした気分は雲散霧消し、心地よい疲労感が身体に広がっているのを感じることができた。


『せんぱい? したらせんぱい?』


携帯電話から漏れ聞こえてくる声で、我に返る。


(あぁ、そうか……)


最初の目的を果たしてしまい、既に彼女の存在もこのゲームもどうでもよくなっていた設楽は、面倒くさい気持ちを押してなんとか携帯電話を取り上げる。
『せんぱーーい!』
「うるさいな。聴こえてる」
『あ、良かった。終わったのにちっとも電話に出てくれないから心配してたんですよ』
「なんでもないよ。……で、どうだ。最後の曲はわかったのか?」
『…………』
「わからないのか?」
『……じ』
「は? 聴こえないぞ」


『し、したらせいじっ!』


「!?」


いきなり大声で呼び捨てにされて、設楽は驚いて目を見開く。正直、彼女の頭がおかしくなったのかと思った。
そうでなければまさかこんなことがーー。


「どういう意味だ?」
『……すみません、ホントはわかりません……』
「……」
『ただわからないって言うんじゃ勿体ないし、当てずっぽうで答えようとしたんですけど……どうせ分からなくて適当な音楽家の名前をあげるくらいなら、先輩の名前をって、そう思って…』
「…そんな理由か?」
『えっと、その…』
「そんな理由で、後輩の分際でこの俺を呼び捨てにするなんて、いい根性だな」
『す、すみません! ごめんなさい!』
「………場所は」
『へっ、ばしょ、って…?』
「待ち合わせの場所だ。おまえが誘ってきたんだろ。何度も言わせるな」
『いいんですか!? さ、最後の曲、わからなかったのに…』
「……行かなくていいなら、別にいい」
『い、行って欲しいですっ。行ってください! 是が非でも!』
「で? 場所と時間は?」
『そしたら公園入り口前に10時で!』
「分かった。遅れるなよ。俺は待たされるのは嫌いだ」
『はい! …やった! 来月のケータイ料金増額覚悟で臨んだ甲斐がありました!』
「へえ」
『へえ、って! 毎月のケータイ料金請求ガクブルなんですよ。自分でバイトして払ってるから』
「ふうん。それはご苦労様」
『……先輩、棒読みです…』
彼女はしょんぼりしたような声を出したが、しかし気を取り直したように、
『そう言えば、最後のは誰の曲なんですか?』
「…言っても無駄だ。おまえにはわからないよ。いいのか? 蒸し返すと約束はなしにするぞ」
『わ! そ、それじゃ、日曜日に!』
薮蛇、とばかりに慌てたたような声。
そのまま電話を切るかと思いきや。


『……わからなかったけど、わたし、最後の曲が一番好きです』


ありがとうございました、さようなら! そう言ってようやく通話が切れた。
その大声に、設楽は再度顔をしかめる。


(騒々しいやつ…)


だが、気分は悪くなかった。
それどころか。


……本当は彼女と出掛ける気など、さらさらなかった。
先程設楽が仕掛けたゲーム。いや、ゲームではなく悪戯だ。しかも、質の悪い。
なにしろーー最後の五曲目は、設楽の即興だったのだから。


わざと簡単な曲を並べて期待をさせておいて、最後は絶対に答えられないようにして誘いを断ってやる。それが設楽の狙いだった。
五曲目、知名度の低いマイナーな曲を選んでも良かったが、それほどクラシック通には見えないとは言え万が一と言うこともある。万全を期すための手だったのだが、まさかそれが返って仇になるとはーー。


震える声が、まだ耳に残っている。


『したらせいじっ!』


(まさか、偶然とは言え、当ててくるとはな…)


しかも。


(『最後の曲が一番好きです』かーー)


ふっ、と自然に笑みがもれる。
なんだか、酷く愉快だった。
馬鹿馬鹿しい、あり得ないと思っていた、梅雨の森林公園散策すら、わりと乙なものかもしれないと思えてくる。


設楽は壁際へと歩み寄ると、インターフォンを通して内線で運転手に車の用意をするように命じる。


日曜日が晴れならばよし。もし雨でも出掛けられるように傘を用意しよう。雨に強い靴や服も必要かもしれない。



そんなふうに思いながら。



足取りも軽く、設楽は練習室を後にした。





******************************

最後まで読んで下さってありがとうございます…!
ホント色々すみません…、
設楽先輩こんなに性格悪くないですよね(汗)。
即興ってそんなのあり? と言う突っ込みには
「天才ですから(どーーーん!)」(by桜木花道)
ってことで、どろん!(逃げた!)

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